守破離の精神

 自立のための人格の基礎は、家庭において作られます。
わが子を守られ育てられる「他律」の状態から、自らの手で人生を切り開いていける「自律」へと導くのが、「家庭における教育の目的」であるように思います。
 わが子の自立のために参考になるのが、茶華道・武道など日本伝統の諸道でいわれる「守破離」(しゅはり)という言葉です。
これは、ものごとを学び始めてから独り立ちしていくまでを、「守」「破」「離」という3つの段階になぞらえたものです。
「守」とは、指導者の行動や価値観を習い覚え、教えを守って、基本の型となるものを身に付けいく最初の段階のことです。
「破」の段階になると教えを守るだけでなく、それを破る試みを始めます。基本を応用させながら自分なりの工夫を繰り返すのです。
最後の段階が「離」です。指導者の下を離れて、自分自身で学び得たものを発展させ、独自の世界を作り出していくのが「離」にあたります。
 千利休が、茶道の心得を百種の和歌に託したと言われる「利休道歌」にも、この守破離の心がうたわれています。
「規矩作法守りつくして破るとも 離るるとても本を忘るな」
先ずお茶の規則や作法を良く守らなければならないが、その後は臨機応変にこれを破り、離れることが大切ということです。
 これを家庭教育に当てはめてみましょう。
親は子どもが生まれると、様々な機会を通して子育ての基本を学び、その中で一生懸命わが子を育てようとします。
だんだん慣れてくれば、わが子に合わせて或いは我が家の価値観に沿って、自分なりに工夫して育てていこうとするでしょう。
やがてわが家独自の子育て観を確立することもあるでしょうが、その場合にも忘れてはならないのは絶えず最初の基本に戻る気持ちです。
基本を忘れた子育ては、独善的なものになりかねません。
子どもへの愛情、家族の絆、「しっかり抱いて、下におろして、歩かせる」といった、子育ての基本を忘れないようにしましょう。
 親としては、この「守破離」の心を大切に、わが子の成長を支援し自立を見守っていかねばなりません。

絵本のある子育て

 優れた絵本は、洗練された美しい日本語によって綴られます。
子どもは、未知の美しい日本語を身近な大人の声で読まれる物語の楽しさにのせて、身に付けていくのです。
 言葉は、考え・思い・学び・伝えるための手立てです。
言葉が豊かになることは、考えや思いが豊かになることです。
それは、人が人らしく生き、社会の中で人との関わりを持って生きるうえでとても大切なことです。
これほど大切な言葉の力は、乳幼児期の大人からの語りかけや絵本を読んであげるという温かく人間的な触れ合いを通してより豊かに得られていきます。

我が子への贈り物

 生まれたばかりのか弱く小さい我が子を初めて胸に抱いた日、誰もが「幸せになって」と心の底から祈ります。
これから楽しいことをいっぱいして、わくわくするような経験を沢山して、いい友だちや幸せな時間を手に入れて、「ああ、生まれてきてよかった」と思って欲しい。
 そして、そこから親の奮闘は始まります。
子どもの為に出来る限り清潔で快適な環境を整え、「良い」と思うものだけを与え、「良い」と聞いたことをあれこれ試して、小さい頃から「良い」体験を沢山させようと頑張ります。
でも、それは本当に子どもの為に「良い」ことでしょうか?
子どもに「幸せ」そのものをプレゼントすることは、実はできません。
子どもは、自分の力で幸せになるのです。
大人にできることは、子どもが幸せを手に入れる為のシンプルで強い、時を経ても変わらない、本物の道具を渡してあげることです。
 子どもが自分を高め、やがて友だちや愛、知性など、お金では買えない大切なものを手に入れる為の道具・・・。
それは好奇心、希望、一生懸命頑張る心、自分を大切に思う心、人を大切に思う心、そして困難を乗り越える力です。
 だから人生の土台となる乳幼児期に、子どもが正しい方向へ「生きる力」「伸びる力」
を身に付けられる環境を作ることこそが、大人に出来るたった一つの、そして最上のプレゼントなのではないかと思います。