利 他 の 心

 日永ハートピア保育園の開園に向けて、建設現場で打合せをしていた令和4年8月24日に 稲盛 和夫 氏の訃報を聞いてから2年6ヶ月が経ちました。
私の人生において、道に迷った時、心が折れそうになった時に書籍や『盛和塾』で支えて頂いた偉大な経営者 稲盛 和夫 氏のことについて触れたいと思います。
幼児教育に携わって34年になりますが、世の中には親を選べない子ども、虐待を受けて児童相談所のお世話になっている子どももいます。
そのような子どもたちと、後半の人生は時を過ごしたいと思って、沢山の乳児院や児童養護施設を訪ねた時期があります。
そんな時に偶然に出会ったのが、京都にある「大和の家(だいわ)」という暖かい雰囲気の乳児院と児童養護施設でした。それから数回通ううちに施設の方とも親しくなり大きな発見をしました。この施設に「稲盛イズム」を感じて施設長に尋ねると、稲盛 和夫 氏がただ一つお持ちの社会福祉施設であることが分かりました。

 皆様もご存じのように、稲盛 和夫 氏は一代で世界的な電子部品メーカーの京セラを創業し、NTTが独占していた日本の電気通信事業の自由化に伴い第二電電(KDDI)を設立されました。そして、平成22年に負債を負って倒産した日本航空(JAL)の再建を託され、会長に就任後2年8ヶ月で再上場を果たされました。
稲盛 和夫 氏は、自らが真剣に仕事に打ち込む日々の中で体得した仕事哲学、人生哲学を著書や講演活動を通じて余すところなく解き明かし、その言葉に惹きつけられ、年齢や職種を超えて多くの人に影響を及ぼしました。

 晩年のインタビューで、「人生で一番大事なものは何だと思われますか」と質問された時に、 稲盛 和夫 氏は、一つはどんな環境にいても真面目に一生懸命に生きること。
自分が自分を一つだけ褒めるとすれば、どんな逆境であろうと不平不満を言わず、慢心せず、いま目の前に与えられた仕事に、それがどんな些細な仕事でも、全身全霊で打ち込み努力してきたこと。もう一つは、『利他の心』を持って生きていくこと。
皆さんの中で仏教を信じていらっしゃる方は多いと思います。
お釈迦様は、生きていく人間にとって一番大事なことは「利他の心」であると説きました。お釈迦様の心の神髄とは、「慈悲の心」です。
思いやりを持った「慈しみの心」、それがお釈迦様の心の神髄なのです。
この心は、他のものを少しでも助けてあげよう、良くしてあげようと思う心です。
そうした心を持って生きていくことが、人生の目的なのではないか。
つまり、利他の行為を行うことが、人間にとってまず一番に大事なことだと思います。
この利他の心の対極にあるのは、「利己の心」です。
自分だけ良ければいい、という心です。このような利己の心を離れて、利他の心で人様を良くしてあげようという心で人生を生きていく。それが生きる目的だと私は思っているのですが、実はこれは口で言うほど簡単ではありません。
利他の心を持って、人様に美しい思いやりの心で接しようという考えで人生を生きていこうと思えば、まず現在生きていることに感謝をするという心が起こってこなければいけません。次に、そのような感謝の心が芽生えてきますと、自然と自分自身がどんな環境にあっても幸せだと思える心になっていくはずです。
「いや、私は決して幸せではありません。大変不幸な人生を生きています」とおっしゃる方もおられるかもしれませんが、この世の中を見渡せば、そういう方よりももっと不幸な境遇の人も沢山おられるはずです。そう考えれば、親兄弟が一緒にいられるだけでも幸せではないかという感謝の念が湧いてくるはずです。
つまり、どんな境遇であれ、心の在り方によって幸せはそれぞれに感じられるものなのです。そう感じるようになる為にも、まず現在こうして生きていけるだけでも幸せだという感謝の念が起こってくることが大事なのです。
そのようにして自分が幸せだと思えるようになってきますと、その次には当然、他の人にも親切にしてあげたいという思いやりの心が生まれてくると思います。
また、そういう心が起こってこなければいけないのです。
したがって、利他の心を持つ為には、まず自分が生きていることへの感謝の心を持たなくてはならないというわけなのです。
日本の社会に偉大なる足跡を残された 稲盛 和夫 氏に感謝申し上げます。

 最後に、安芸の国(あき、広島市)の領主 毛利 元就の言葉「三本の矢の教え」について触れたいと思います。
一本の矢は簡単に折れるが、三本束ねると容易には折れない。
「皆が心を一つにすれば毛利家は破られることはない」と三人の子どもに元就は語ったそうです。
三つの施設がモンテッソーリ教育を保育の根っこに据えて、子どもは環境によってどのようにでも育つことを立証したいと考えています。
小さな成功体験から生まれる心の中に芽生えた自信、この自信の積み重ねが新たな大きな山を乗り越える力になります。温かく見守られた眼差しの中で過ごした乳幼児期が、子どもの「やればできる」という自信を作るのです。
私ども日永ハートピア保育園を含めて、ハートピア保育園と内部ハートピア保育園が、次の世代まで「三本の矢」となることを信じています。